現在、医療業界で議論されている「かかりつけ医」の制度化について、その内容や背景と、我々の業界に与える影響について考察したいと思います。
2022年4月13日に開催された、財務省の審議会等の一つである財政制度等審議会 財政制度分科会において、財務省よりかかりつけ医の制度化が提案されました。
これはかかりつけ医機能の要件を法制度上明確化したうえで、これらの機能を備えた医療機関をかかりつけ医として認定するなどの制度を設けること、またこうしたかかりつけ医に対して、利用希望者による事前登録・医療情報登録を促す仕組みを導入していくことを、段階を踏んで検討するべき、という主旨のものです。
我が国の医療には「国民皆保険」「現物給付」「フリーアクセス」という三つの特徴があります。
「国民皆保険」はご存知の通り、自営業者は国民健康保険、中小企業の方は協会けんぽ、大企業の方は会社の健康保険組合等、原則として全員がいずれかの公的な医療保険(保険者)に属することです。
また「現物給付」は、これらの保険者からお金ではなく、必要な医療そのものが給付される仕組みのことです(我々の業界で扱う療養費は現金給付であり、所々の問題を補うために受領委任制度が運用されています)。
そして「フリーアクセス」とは、自由につながる、つまり患者自身が必要な時にいつでも医療機関を選んで、受診することが出来る仕組みのことをいいます。
ちなみに海外の医療機関ではこのフリーアクセスは珍しく、例えばカナダなどは国民皆保険ではあるものの、患者自身が大きな病院にかかりたいと思っても最初の診療は必ず地域の家庭医で受ける必要があり、家庭医の紹介がなければ、専門医や専門病院は受診できないという仕組みにこのようにフリーアクセスは我が国の医療の特徴の一つですが、財務省はこのコロナ渦を振り返り、「フリーアクセスは肝心な時に十分機能しなかった」として、必要な時に必要な医療にアクセスできるという質重視のものに切り替えていく必要があるため、制度的対応が必要不可欠であると述べています。
さて、話を我々の業界に戻してみましょう。
万一将来的にかかりつけ医が制度化されることになった場合、最も影響を受ける可能性があるのは医師の同意です。
例えば柔整でいうと、近所に信頼関係を築いている医師がおり、患者を紹介して実際に骨折・脱臼などがあった場合、これまではその後の後療については任せていただけていたとします。
これが制度開始以降は、施術所が紹介する病院ではなく、患者のかかりつけ病院に受診することになります。
患者のかかりつけ病院と信頼関係がない場合、その後の後療を任せてもらえないケースも出てくるでしょう。
また鍼灸、あん摩の場合はさらに深刻です。
現在は「同意を求める医師は、原則として当該疾病にかかる主治の医師とすること。」とされており、整形外科医に限定したものではなく、現に治療を受けている医師から得ることを原則としています。
患者があはきの保険適用を望んでおり、この主治の医師が同意を拒んだ場合、現在は患者の意思で病院を変更し、新たに担当する主治の医師から同意を得ることもできるわけです。
しかし制度開始以降は、患者自身がかかりつけ医として登録している医療機関が存在するため、申請後に保険者側で「登録しているかかりつけ医(主治の医師)ではないため、同意書は無効であり療養費の支給は不可」などといった決定が下される可能性すらあります。
このようなことを考えると、同意をいただく病院は、今後も出来る限り患者のかかりつけ病院にしていくことが望ましいでしょう。
来院患者の同意医師が、施術所が信頼関係を築いている病院に偏っている、などという場合は注意が必要です。