
令和8年(2026年)度の療養費改定に向けた議論が、大きな節目を迎えました。
令和8年4月30日、社会保障審議会医療保険部会の第35回柔道整復療養費検討専門委員会と、第38回あん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費検討専門委員会が開催され、令和8年度の料金改定案が概ね了承されました。
今回も私は会場に足を運び、皆様の実務に関わる重要な決定の瞬間をしっかりと傍聴してまいりました。
今回の改定案は、従来の枠組みを大きく見直す内容や具体的な料金数値が明記されており、非常に踏み込んだものとなっています。
現時点ではあくまで了承された案の段階ですが、当日公開された最新の資料、そして会場の空気感から得られた内容を詳しく皆様に共有いたします。
まず、今回の改定で注目すべきは、政府が決定した改定率の根拠です。
柔整、あはきともに療養費の改定率はプラス0.60%となることが報告されました。
この数値は、令和8年度診療報酬改定における医科の改定率0.28%の半分に当たる0.14%をベースとし、そこに現下の物価上昇への対応分として0.46%を上乗せするという、これまでにない形で算出されています。
物価高騰に直面する施術所の経営に配慮された結果と言えます。
具体的に柔道整復の料金改定案から見ていきましょう。
厚労省事務局からは、初検や再検、施術といった柔道整復師の基本となる行為への体系的な評価を進めること、そして施術者と患者の情報共有を促進するために明細書の発行を推進し、現下の物価高騰に対応することが基本的な考え方として示されており、全体の改定の施行時期は令和8年7月1日と提案されています。
料金の具体的な内容としては、初検料が10円引き上げられて1回当たり1,560円に改定されます。
ただし、算定ルールが厳格化され、他部位での施術を含めて施術継続中である場合や、施術の終了または中止後3か月(歴月)が経過していない場合には初検料を算定できないこととされます。
その代わり、施術の終了または中止後1か月(歴月)以上3か月(歴月)以内に行われた施術については、再検料を算定できる扱いとなります。
その再検料については、10円引き上げられて1回当たり420円に改定され、連続する2回の施術について算定できるようになります。また、初検料のみを算定して、他の療養費の施術の請求や自費施術を行うことは認めないという、初検料の算定に関する規定の整理も行われます。
施術料金については、打撲と捻挫に対する初回の施術である施療料が10円引き上げられて1回当たり770円に、後療料は45円と大幅に引き上げられて1回当たり550円に改定されます。
ここで実務上非常に大きな変更点となるのが、2部位目の施術について80%で算定する逓減制が導入されるという点です。
多部位請求に対する適正化の波が、より具体的な料金ルールとなって現れています。
罨法料については、温罨法料の料金が5円引き上げられて1回当たり80円に改定される一方、冷罨法料の料金は5円引き下げられて1回当たり80円に改定されます。
これは罨法料の料金を同一にすることで、今後の算定期間の撤廃が視野に入れられています。
また、電療料については温罨法料等との料金格差を縮減する観点から、前回改定を上回る形で13円引き上げられ、1回当たり46円に改定されます。
明細書の発行推進についても見直しが入ります。
現行の「明細書発行体制加算」の名称が「明細書発行加算」へと見直され、明細書を発行した場合には1回当たり10円の加算を算定できる取扱いとなります。
患者の求めに応じて1か月単位でまとめて交付することも引き続き認められますが、患者の求めを起点としていることを確認するための措置が講じられます。
さらに、明細書に負傷名または施術した部位を記載する欄を設けるなど、様式の整備も同時に行われます。
今回の委員会で特に印象的だったのは、健康保険組合連合会の幸野委員の発言でした。
幸野委員は、例年にない診療報酬の大幅な引き上げに影響されて療養費も改定されたことについて「悪いことではない、真面目に取り組んでいる施術所が安定経営できることは大切なことであるし、不正に走らないことにつながる」と述べ、施術所の安定経営の重要性に理解を示しました。
その一方で「料金が大幅に引き上がるからこそ不正防止対策にきちんと取り組んでほしいと主張してきた」とし、今回の算定ルールの見直しなどの不正防止対策を非常に高く評価されていました。
長年委員を務められている幸野委員から、例年にない大きな改定になったという言葉が出たことからも、今回の適正化と引き上げのセットがいかに歴史的なものであるかが伺えます。
次にはり・きゅう、あん摩マッサージ指圧のあはき療養費改定案についてです。
改定率は柔整と同様にプラス0.60%で了承されていますが、実務上の運用において非常に重要な事実があります。
まずマッサージの施術料についてですが、1局所につき20円引き上げられ、1回当たり470円に改定する方向で議論が進んでいます。たとえば5局所の場合は100円の引き上げとなり、1回当たり2,350円という形です。
また、医療保険制度における適正な評価を推進する観点から、一定回数を超える施術に対する逓減制の導入が検討されています。具体的には、月16回以降の施術について、マッサージ、訪問施術料、温罨法(電気光線器具を使用した場合を含む)、変形徒手矯正術の所定料金を50%逓減して算定する方針で議論が進んでいます。
一方ではり・きゅうの料金は、初検料が1術で50円引き上げられて2,000円、2術で90円引き上げられて2,320円となり、通所の場合の施術料および訪問施術料(通所分)は1術が40円引き上げられて1,650円、2術が50円引き上げられて1,820円にそれぞれ増額されます。
なお、はり・きゅうにおいても、マッサージと同様に月16回以降の施術については、施術料、訪問施術料、電療料について、50%に逓減して算定する取扱いに変更される方針です。
さらに実務に直結する変更案として、訪問施術制度の一部見直しが挙げられます。
患者数に応じた区分が新設され、10人以上の場合の訪問施術料4、および20人以上の場合の訪問施術料5を新たに設ける方向で議論が進んでいます。
加えて、これらの訪問施術料4または5を算定する施術所において、特定の施設で行われる訪問施術が全体の9割以上を占める場合には、当該施設における訪問施術の料金について100分の80に相当する額により算定する、といった話も出てきています。
施設と施術所の経営が一体となっている等の実態を踏まえたもので、特定の施設に入居している患者に対して独占的に施術を行っている場合に対するペナルティ的な制限措置と言えます。
単に回数を重ねるビジネスモデルを抑制し、本来の必要性に基づいた運用を促す観点からも、必要な検討だと言えるでしょう。
また、あはき全体の新設項目としては、施術の内容がわかる明細書を無償で患者に発行した場合に、1回当たり10円を算定できる明細書発行加算の新設が議論されています。
最後に、先生方の実務において最も注意すべきなのが施行期日の扱いです。
基本的な料金の引き上げなどの項目は令和8年7月1日施行の方向で提案されています。
ただし、月16回以降の逓減算定や、新設される訪問施術料4および5の導入など、新たな療養費支給申請書(用紙)による請求を行うこととなる取扱いについては、現場への周知やシステム改修に多大な準備期間を要するため、通常の7月1日の改定時期とは時期をずらし、後ろ倒しで施行する方針で議論が進んでいます。
新用紙への対応やシステムの改修など、実務的なハードルは高くなりますが、これからの運用を適切に行うためにも、今後の正確なスケジュールを注視していく必要があります。
なお、事務負担軽減を目的としたあん摩マッサージ指圧の施術部位数による包括料金制への移行については、安易な粗療に繋がらないよう慎重な設定を求める声が強く、今回は次回改定に向けての継続課題となる見通しです。
今回の両専門委員会を傍聴して強く感じたのは、厚生労働省および保険者側がデータとシステムを活用し、不正や不自然な請求の抽出を強化する一方で、真面目に経営している施術所をしっかり評価しようとする明確な意思です。
2部位目の逓減制や初検料の3か月ルールなど、実務的なハードルは高くなりますが、それは裏を返せば、施術録や明細書においてなぜその施術が必要なのかを客観的に証明する説明責任がより強く求められる時代になったと言えます。
これらは現時点では概ね了承された案の段階であり、今後の手続きを経て最終決定される見通しです。
アトラ請求サービスでは、どの項目が具体的にいつから施行されるのかといった正確なスケジュールや細則が判明し次第、迅速に情報を分析し、会員の先生方が不利益を被ることのないよう全力でサポートを続けてまいります。
新しいルールへスムーズに対応できるよう、共に準備を進めていきましょう。