もしも、患者さまから鼠径部の痛み・腫れを訴えられたら、先生方はどのような傷病を思い浮かべるでしょうか。
変形性股関節症・梨状筋症候群・関節リウマチ・グローインペイン症候群(鼠径部痛症候群)・・・
考えられる傷病はいくつもありますよね。ヒアリングや検査等で、ある程度傷病を絞り込めると思いますが、ここで先生方の頭に留めておいていただきたいのが「梅毒」です。最近のニュース等で聞いた方もおられるかもしれませんが、現在、若い世代を中心に梅毒感染者の数が増加しており、厚生労働省が梅毒の注意喚起を発するまでとなっています。
梅毒とは、主に性的な接触(他人の粘膜や皮膚と直接接触すること)で感染する病気です。江戸時代にまで遡ると「不治の病」と恐れられていましたが、現代の医療では、梅毒自体で命を落とす可能性は低くなりました。しかし、治療しないまま放置していると、全身にさまざまな症状が現れ、大動脈瘤や髄膜炎、神経梅毒といった重大な合併症を引き起こし、結果として命を落とす恐れがあります。
〇梅毒の症状
梅毒は、感染してからの期間に応じ、大きく「1期」「2期」「晩期(3期)」に分けられます(以前までは4期に分類されていました)。
第1期の特徴的な症状は、感染が起きた部位(陰部や口唇、口腔内、肛門など)に硬いしこりや潰瘍ができたり(初期硬結)、鼠径部のリンパ節が腫れたりすることです。痛みがないことが多いようですが、人によって痛みを感じることもあります。この時に、勘違いをして接骨院へ施術を受けに来る可能性があります。
この時期は他の人に感染させやすい時期となります。1期の症状は数週間自然に軽快しますが、病原体がいなくなったわけも完治したわけでもありません。梅毒感染から3ヵ月~3年ほど経つと、第2期症状が現れます。
第2期は、病原体が血液によって全身に運ばれることで、手の平や足の裏、体全体に赤い発疹(バラ疹)が出る等、多くの皮膚のトラブルが起こります。治療をしなくても数週間以内に消えたり、または再発を繰り返したりすることがありますが、特効薬で治療しない限り病原体は体内に残り続けます。
この時期の症状は、アレルギーや風しん、麻しん等の他の感染症に間違えられることがあります。
適切な治療を受けなかった場合、数年から数十年の間に晩期顕性梅毒(3期)による様々な臓器障害につながる可能性があります。皮膚や筋肉、骨などにゴムのような腫瘍(ゴム腫)が発生し、心臓などの臓器や血管、脳など複数の臓器に病変が生じ、場合によっては障害を残す可能性があります。
〇早めの検査・治療が肝心
医療が進歩した現代では、ほとんど方が晩期まで重症化せず完治しています。とはいえ、梅毒の検査・治療は、2期までに行うことが強く推奨されており、少しでも自覚症状がある方は、必ず医療機関の診断を受けることが望ましいです。
厚生労働省が「感染症・予防接種相談窓口」を設置しており、性感染症に関する情報提供や検査・治療の受け方に関するアドバイスを受けることができます。匿名・無料で相談できるので、気軽に利用可能となっています。最近では、多くの保健所で無料・匿名検査を受けられるようになっており、郵送・夜間・休日検査を実施している医療機関もあります。詳しくは最寄りの保健所にお問い合わせください。
〇患者さまへの伝え方
もしかしたら、うちの患者さまも・・・と思っても、患者さまに「梅毒かもしれませんよ」とは言いにくいはずです。そんな時は「最近ニュースでよく聞くんですが・・・」「最近は匿名で検査をしてもらえるみたいですよ」と、世間話に情報を混ぜてお伝えしてみると良いかもしれません。また、先生方の院でコラムやブログを書いていらっしゃるなら、テーマの一つとして取り上げてみてはいかがでしょうか。
もっと直接的な伝え方であれば、「こういった症状の患者さま全員に、念のためお伝えしているのですが、」と前置きをしたうえで、梅毒についてお話されるのも一つの手です。センシティブな内容でもあるので、お伝えする際はできる限り患者さまと同性の施術者が話題を出すようにしてください。
感染症・予防接種相談窓口|厚生労働省
・電話番号:03-5656-8246
・受付時間:午前9時~午後5時(土日祝日、年末年始を除く)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/seikansenshou/index.html